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青森地方裁判所 昭和31年(行)15号 判決 1959年6月11日

青森県北津軽郡板柳町大字福野田字増田六番地

原告

佐藤栄次郎

右訴訟代理人弁護士

三上啓二

右訴訟復代理人弁護士

内野房吉

青森県五所川原市字柳町一番地

被告

五所川原税務署長

菅原大也

右指定代理人検事

滝田薫

法務事務官 清水忠雄

大蔵事務官 徳能一男

法務事務官 三浦鉄夫

法務事務官 鹿内清三

右当事者間の昭和三十一年(行)第一五号差押処分取消請求事件について当裁判所は次の通り判決する。

主文

本件訴を却下する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は「被告が昭和三十一年九月五日原告に対してなした入場税額六十万七千九百四十円、納付期限同月六日十五時限りとする課税処分、及びこれに基いて同月七日別紙第一目録記載の物件に対してなした差押処分、並に同月十一日別紙第二目録記載の物件に対してなした差押処分はこれを取り消す。訴訟費用は被告の負担とする」との判決を求め、その請求原因として

一  原告は肩書住所において常設興業場新星キネマを経営しているものであるが、被告は原告が入場税法第十九条に規定する入場券切取の義務に違背して昭和三十年五月一日から同年十二月三十一日まで同興行場に入場する入場者から呈示を受けた入場券の半片を切り取らないでそのまま回収し、右使用済入場券を再度使用し、再使用入場券により領収した入場料金を正規の帳簿に記載せず、毎月被告に提出する課税標準申告書にこれを算入しない不正の行為によつて合計入場税金六十万七千九百四十円を免かれたものであるとして、昭和三十一年九月五日原告に対し右免かれた入場税金六十万七千九百四十円を翌六日十五時限り納付すべき旨の納税告知をし、次いで原告がその納付をしないことを理由に右税金を徴収するため翌七日原告所有の別紙第一目録記載の物件を差押え、同月十一日原告所有の別紙第二目録記載の物件を差押えた。

二  しかし被告のした右課税並びに差押処分には次に述べる如き違法がある。即ち、

(一)  課税処分については、(イ)原告は被告認定の如き入場税を免かれたことはない。原告はなんら偽るところなく昭和三十年五月から同年十二月まで領収した入場料金として総額金百四十万八千五百六十円と申告したところ、被告はこれを五百五万六千三百八十円と決定し、その差額三百六十四万七千八百二十円を税額としてこれに基いて前記金額の入場税を免れたと算定しているけれども、被告の右決定は入場料とは全く関係のない原告の木材販売益金、フイルム貸付料金等の収入を目してすべて入場料金による収入と誤認した結果に外ならない。(ロ)仮りに百歩を譲り脱税の事実があつたとしても、金六十万七千九百四十円という多額の税金を告知の翌日に納付することを求める右課税処分は原告に対し不能を強いるものであるから無効である。

(二)  差押処分については、(イ)右(一)において述べた如く課税処分が違法であるからこれに基いてなされた差押処分も当然違法たるを免れない。(ロ)のみならず被告は原告が脱税をしたものとしてその脱税額徴収のため差押処分をしたのであるが、かかる徴収は国税徴収法第四条の一の所謂繰上徴収の場合に該当するものではないから必ず督促を経た上で差押処分をしなければならないのに、被告はその督促もせず前記納期到来と共に直ちに差押処分をした違法がある。

そこで、原告は被告のなした前記課税並に差押処分の取消を求めるため本訴に及んだ次第である。

と述べ

被告の本案前の抗弁に対し

(イ)  原告は差押処分後の昭和三十一年九月十二日頃被告に対し口頭を以て再調査の請求をした。(尤も被告は右請求は書面を以てするよう補正を命じなかつたばかりでなく、本件は行政訴訟による救済を求める外に方法があるまいとてとりあわなかつたので、原告は相馬五郎税理士に依頼し被告に対し重ねて口頭で再調査の請求をなさしめたが、前同様の結果に終つた。そこで相馬五郎税理士は仙台国税局長に対し交渉したが、これ亦拒否され行政訴訟によるべき旨を告げられた。)しかるに未だこれに対する決定の通知がない。

(ロ)  仮りに右は再調査の請求とはいえないとしても、右申出に対する被告の態度及び被告が右の如く納税告知をした翌日に早くも差押処分をした経緯に鑑み、直ちに公売処分を執行することが予想されたので若し審査の決定を経たうえで本訴を提起するときはすでにその時機を失し著しい損害を生ずる点があつたので、これを経ることなく本訴を提起するに至つたものであるから右は正当な事由があるものというべきである。

又仮りに右理由がないとしても、前記二、(一)(ロ)の如く課税処分の無効を主張する限りにおいては再調査及び審査の決定を経由するまでもなく出訴し得るものである。

と述べ

立証として、甲第一、二号証を提出し、原告本人訊問の結果を援用し、乙第一号証の一、二の成立は不知、その余の乙号各証の成立は認めると述べた。

被告指定代理人は主文同旨の判決を求め

本案前の抗弁として

原告は国税徴収法第三十一条の四第一条に違反し審査の決定を経ないで訴を提起したから本訴は不適法として却下すべきである。

と述べ

右抗弁に対し、原告が主張する事実はすべて否認する。被告は原告からその主張の如く再調査の請求を受けたことがない。たとえ差押物件について公売のおそれがあつてもそれは直ちに審査の決定を経ずに出訴し得る正当な事由があることにはならないのみならず、そもそも本件差押物件については未だ公売公告さえされていないのであるから原告主張の如く審査の決定を経ないで出訴しなければその時機を失し著しい損害を生ずる虞があつたとはいえない。

のみならず国税徴収法第三十一条の四但書により審査の決定を経ないで出訴し得るのは適法に再調査、審査の請求をしているか、又はこれをなし得る場合に限られ、再調査、審査請求の期間を徒過すればもはや出訴し得ないものと解されるところ、本件においては課税処分は昭和三十一年九月五日、差押処分は同月十一日になされているから、これにより一カ月の再調査請求期間を経過した後の同年十一月十三日に提起された本訴は公売のおそれがあつたか否かにかかわらず不適法であるといわなければならないと述べ

本案につき請求棄却の判決を求め、その答弁として

原告主張の一、の事実は認めるが二、の事実は否認する。被告がした課税処分並に差押処分には何等違法のかどはない。即ち

被告は原告が入場税法第十九条に違背し昭和三十年五月一日から同年十二月三十一日までの経営にかかる興行場に入場する入場者から呈示を受けた入場券の半片を切り取らずそのまま回収して再使用して領収した入場料金を正規の帳簿に記載せず毎月被告に申告する課税標準額申告書に算入しない不正の行為によつて入場税合計金六十万七千九百四十円を免かれたので、入場税法第二十五条第三項により直ちに入場税を徴収することができるものであるため、昭和三十一年九月五日原告に対し納期を翌六日十五時と指定し納税告知をしたが、原告は右納期に納税をしなかつたので更に国税徴収法第九条第一、二項により同年九月六日十七時原告に対し期限を翌七日十五時と指定して督促状を発し、右督促の指定日時経過後の九月七日原告所有の別紙第一目録記載の物件につき、同月十一日同第二目録記載の物件につき同法第十条により差押をしたものである。

仮りに課税処分につき原告主張の二、(一)の如き違法があるとしてもこれがため直ちに差押処分も違法となるものではない。

と述べ

立証として、乙第一、二号証の各一、二、第三乃至第五号証を提出し、甲号各証の成立を認めた。

理由

先ず訴の適否について判断する。

国税徴収法によれば、国税の賦課徴収に関する処分又は滞納処分に関し異議ある者は当該処分に係る通知を受けた日から一カ月以内に当該処分をなした税務署長に対し再調査の請求をすることができこれに対しなされる再調査の決定に対し異議ある者は更に当該処分の通知を受けた日から一カ月以内に国税庁長官その他所定の者に審査の請求をすることができ、これに対しなされる審査の決定を経た後でなければ再調査の決定又は審査の請求の目的となる処分の取消又は変更を求める訴を提起することができず、唯例外として一定の事由ある場合に限り再調査の決定又は審査の決定を経ないで右の訴を提起し得るのである(同法第三十一条の二、同条の三、同条の四参照)。本件において原告が本訴の提起に先立ち審査の決定を経由しないことは本件口頭弁論の全趣旨により明かである。

原告は本件差押処分の直後に被告に対し口頭で再調査の請求をした旨主張するけれども、再調査の請求は書面を以てすべき要式行為であるばかりでなく、成立に争のない甲第二号証によれば、その内容においても原告は税理士相馬五郎に依頼して被告に対し本件課税及び差押の緩和を陳情せしめたものであつて、とうてい再調査の請求と目することができない。

原告は亦審査の決定を経ずに出訴する正当事由として、当時本件物件の公売の時期が切迫していたので再調査及び審査の決定を経由するときはその間公売により右物件を失い出訴の時機を失するおそれがあつた旨主張する。しかし本件に現れた一切の資料によつてもしかく公売の時期が切迫していたものとは認められず、原告は昭和三十一年九月五日の納税告知、同月七日及び十一日なされた差押処分(以上各行政処分のあつた日時につき争いがない)の時から一カ月の再調査の期間のみか、その後更に一カ月余も漫然と経過した同年十一月十三日に至り漸く本件訴を提起したものであるから右主張は全く理由がない。

原告は更に課税処分の無効を主張する点においては審査の決定を経ずに出訴することができる旨主張するけれども、課税処分の無効確認を求める訴なら格別、本件訴訟は課税処分の取消、変更を求める訴なのであるから審査の決定を経ることなくして出訴されないことはさきに挙げた国税徴収法の規定上明白である。

よつて本訴はこれを却下すべきものとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用し主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 飯沢源助 裁判官 福田健次 裁判官 野沢明)

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